「東日本大震災の教訓」村井俊治著 褐テ今書院 2011年8月10日第1刷発行
《感想》
昨年の東日本大震災によって日本では甚大な被害を受けた。この甚大な被害を無駄にせず、将来発生するであろう津波に適切に対応できるように、この津波災害で得られた教訓を後世に残す本としてこの本を読み始めた。
読み終わって、この本は、今後大きな津波が心配される地域の人々が教訓として読むべき本だと思った。具体的な事例が豊富に記述されていて、津波の恐ろしさと避難の重要性がひしひしと感じられた。
更に、各事例について著者の44の教訓が導き出されている。国や自治体が今後推進すべき事柄、個人が反省して見直すべき事柄などが教訓として指摘されている。
このブログが、この本を読む人が増える契機になれば嬉しい。また、このような本が今後続々と発刊されることを期待したい。
《参考》
体験談をまとめたサイトも見つかった。
http://weathernews.com/ja/nc/press/2011/pdf/20110908_2.pdf《参考》
ウィキペディア「東北地方太平洋沖地震」
今後の津波への対応を考えるために、津波に関するデータと教訓を集約して教科書風にまとめてみた。
1.津波の記録
東北地方の太平洋沿岸に関する過去の大きな津波の記録は次の通り。
1)平成津波
@発生時刻・地震の大きさ・震源 (pB はじめに)
発生時刻:3月11日午後2時46分 マグニチュード9.0 震源:牡鹿半島の東南東130km、
A津波 釜石の沖合い15kmで(港湾空港技術研究所のGPS波浪計)
・第1波 3時12分 6.6m
・第2波 3時45分頃 2m
・第3波 4時30分頃 1.2m
・第4波 5時55分
・第5波 6時45分 1.6m
・第6波 7時40分 1.2m
・第7波 8時40分 1m
※このように多数回の津波が発生した理由は、今回の地震が広範囲に複数箇所の震源によって発生したからだろう。
ウィキペディア「東北地方代併用沖地震」には、3回の地震が発生した、と記述されている。3回の地震で7回の津波というのは、理解できない。
2)チリ津波 出典:ウィキペディア「チリ地震(2010年)
@発生時刻・地震の大きさ・震源地
2010年2月27日 モーメントマグニチュード8.8 震源地:チリ中部沿岸
A津波(推定)
陸前高田市:1.9m 気仙沼:1.8m
B気象庁発表
2月28日大津波警報(3m予報) ※大津波警報は1993年7月の北海道南西沖地震以来
その後、段階的に津波警報、津波注意報へ切り替えられ、33月1日すべて解除された。
津波の予測が過大であった事、警報・注意報が長引いたことを謝罪した。
※このように当初の大騒ぎが、最後は漁業被害だけに終わったことが、
今回の平成津波に対する「また虚報」か、との油断をもたらしめたケースもある。(p45)
3)チリ地震・津波(p64)
@発生時刻・地震の大きさ・震源
発生時刻:昭和35年(1960年)5月22日午前3時11分 マグニチュード9.5 震源:地理
A津波
被害:142名
※東北大震災は、この地震・津波から51年経過して発生した。
「未曾有と想定外」(畑村洋太郎著)によると、記憶の減衰には法則性があり、60年経過すると地域がその災害のことを忘れてしまうとある(p19)。忘れなかった自治体・学校は被害が少なかったが、多くの自治体・地域は忘れてしまい、大きな被害を受けてしまった。
4)昭和津波(p65)
@発生時刻・地震の大きさ・震源
発生時刻:昭和8年(1933年)3月3日午前2時30分 マグニチュード8.1 震源:釜石市東方沖合い200km
A津波
三陸地方で約3,000人の被害
最大遡上高さ:岩手県大船渡市28.7m
5)明治津波(p59)
@地震の大きさ・震源・発生時刻
マグニチュード8.2~8.5 震源:釜石市の沖合い200km 発生:明治29年(1896年)6月15日
A津波
宮古市田老地区:14.6m
山田町船越:10.5m
大船渡市三陸町:22.4m
綾里(遡上高さ):38.2m
B人的被害 死者・行方不明者 2万1,959人
6)貞観地震(p16)
@地震の大きさ・震源・発生時刻
マグニチュード8.4 震源: 発生:貞観11年(869年)
A津波
平成津波と同じ位内陸に到達したと推定されている。
《参考》
「津波災害は繰り返す」箕浦幸治氏(東北大学大学院理学研究科教授 専門:地質学及び古生物学)
http://web.bureau.tohoku.ac.jp/manabi/manabi16/mm16-45.html1)約1000年に一度大津波が繰り返した
仙台平野の表層堆積物の分析によって、3000年間に3度、津波が遡上したと試算された。
800年から1100年に1度発生したと推定された。
※下記の貞観津波から1242年経過している(昨年2011年)。貞観津波と同程度の大津波が起きてもおかしくなかった。
※地震発生周期については、政府の地震調査委員会が2011年11月24日、約600年周期で海溝型地震が発生していると認定した。《出典》ウィキペディア「東北地方太平洋沖地震」
2)貞観津波(貞観11年869年)の数値的復元
仙台平野の海岸で最大で9mに達する到達波が7,8分間隔で繰り返し襲来したと推定された。
2.事前の防災の仕組み・設備・教育・訓練
1)防災の仕組み
@避難場所の設定(ハザードマップ)
事前に設定されていた避難場所が被災してしまった。
釜石市の死者・行方不明者の86%がハザードマップで津波到達想定外の区域で被害にあった。【メモ3】
→自治体で作られている津波到達想定を鵜呑みにしてはいけない。
想定が、過去の最大地震を元に作られたかどうかを確認しなければならない。
※ここまで考えるのは、一般的には難しいことと思う。津波に相当関心を持っている人ならば、考えるだろうが。
自治体が想定を行う時に、過去最大の津波に対して避難場所を設定する必要がある。
2)防災設備
@防潮堤
・釜石市の防潮堤が津波で崩壊した(想定ミス、設計ミス?)
・宮古市田老地区:高さ10m 総延長2.4km(p49) 昭和津波の後に設置
住民の中には、防潮堤を過信して、避難しなかった人も居た。
・岩手県普代村:15.5m高さの防潮堤を総工費36億円で作った。(昭和43年) 3,000人の村人を救った。(メモ33)
A避難通路の設置
・岩手県大船渡市越喜来小学校(教訓8):高台への非常通路を2010年に400万円で設置した。この通路が今回役に立った。
3)児童の避難システム
@災害時に保護者が児童を引き取るというマニュアルは、誤り。児童・親は別個に避難するべきだ。
・津波発生時にはこのマニュアルが裏目に出て、親と一緒に自宅に向かった生徒に犠牲が多かった(教訓2)
・宮城県山元町私立ふじ幼稚園:送迎バスで保護者に引き渡そうとして遭難した。(教訓10)
4)津波に関する教育・訓練
・月に一度は300m離れた高台への避難訓練をしていた。(釜石市私立保育園)(教訓3)
・津波の怖さについての教育が不十分:一度高台に避難した後、寒さの中での子供の体調を心配して自宅へ戻り遭難した。(教訓3)
※津波が何度も押し寄せると言う話は、今回この本を読んで初めて知った。3月の報道では頭に残らなかった。
5)避難用具の準備(教訓14)
・ポケットの多いジャケットに、キャンディ、ナッツ、ティッシュを入れておく。
・リュック:ラジオ、懐中電灯、軽食、ペットボトルの水、手袋、ゴミ袋、下着、ホッカイロ、マスク、医薬品、ヘルメットなど
2.災害時の情報伝達
1)津波の高さ
・過小な津波高さがラジオで報道された。その結果、多くの住民が只越にある5mの堤防立浪を止められると思った。
岩手県で3m、宮城県で6mと過小なデータが報道された。
→ 津波高さの精度を向上させる努力が行われている。
出典:読売新聞2012年2月28日夕刊
※この津波高さ測定の精度不足、もしかすると、関係先の間では以前から分っていたのではないだろうか。しかし、今回のような巨大な地震が起こり大津波が来ることを予見できず、精度不足を放置していたのではないだろうか? 必要性は分かっていても、緊急性が無いと判断されれば予算が割り当てられない、と言うことではなかったろうか。この現象は、いわば、「社会から(大津波事象が)消えてしまった。」(『未曾有と想定外』畑村洋太郎著)と言うことかもしれない。
2)安否確認
・家族同士の安否確認のために携帯電話を使うこと、遠隔地の家族・親族からの安否確認が、避難動作を遅らせてしまう。
※家族の安否を確認したいと言う心情は、誰にもあることだが、津波からの避難は時間との勝負であることをしっかりと認識しておくことが大事だ。(教訓8)
3.避難
1)避難の空振り
過去に津波警報が出された時、実際に起きた津波の高さが0.5m程度だったことがある。
今回は、この経験が「狼少年」の心理として働いたのかもしれない。(教訓38)
※空振りに終わった津波警報での避難は、避難訓練を行ったと考えると良いかもしれない。
避難に要した時間などを反省するなど。
2)車による避難
@渋滞で逃げ遅れた(教訓30)
A鉄道の遮断機が下りて逃げ遅れた(この本ではなくNHK報道より)
3)避難後
@寒さ対策
宮城県東松島市野蒜小学校:津波に濡れて寒かったので「野蒜小ファイト」と声を掛け合って励ました。
宮城県南三陸町戸倉小学校:キャンプファイヤーと歌を歌ってで寒さを凌いだ。
4.判断・機転
危機的な状況では、状況を的確に判断して機転を利かせた行動が自分及び周りの人々の命を救う。
1)状況判断で、避難後、指定避難場所から更に40m高い丘の上へ避難して助かった。(岩手県山田町船越小学校)
2)指定避難所から更に奥の高台に避難した。(釜石市釜石東中学校、避難所の裏手の崖が崩れそうになっているのを見て)
(「災害」の定義)
この本を読んで、言葉の定義を考えた。
第13章21世紀の災害論(p178)に述べられている、広辞苑(岩波書店)の「災害」の定義はかなり適切だと思う。
「異常な自然現象や人為的原因によって、人間の社会生活や人命に受ける被害」
つまり、原因が自然と人間で、結果が社会や人命だとを分けて説明している。
手元にある「大辞林」(三省堂、松村明編、第2版 注)第1版は1988年発行)によると次のように定義されている。
「地震・台風・洪水・津波・噴火・旱魃・大火災・伝染病などによって引き起こされる不時のわざわい。また、それによる被害。
この定義には、広辞苑にある人為的原因が含まれていない。
「災害」は、「災」と「害」に分けられる。
漢和中辞典(角川)によると、「災」は、次のように定義されている。
1.わざわい、さいなん
2.大火事
3.しぜんにおこるわざわい
同じ辞典に、「害」は、次のように定義されている。
1.そこなう、こわす、きずつける
2.さまたげる (妨害)
3.わざわい、さわり (災害)
4.防ぐのに都合が良く、攻めるのに難しい所 (要害)
文字の形からすると「災」は大火事を表わすようだ。「大火事によって人命や財産が損なわれる」というのが、字義通りに捉えた定義となるだろう。上に述べた広辞苑の定義は、これを敷衍した定義となっている。
あえて言えば、社会生活より人命の方が尊いので
「異常な自然現象や人為的原因によって、人命や社会生活が受ける被害。」
と言った方が適切だと思う。
(保険による経済的被害の軽減)
津波で被害にあった沿岸地区は生活の利便性が高いので、津波を心配しつつも沿岸地区に住居を構える人が多い。そこで、災害保険、生命保険は高台に住む人よりも、保険掛け金を高く設定されるようになるだろう。
《目次》
はじめに
第1章 助かった子供たち
第2章 生き残った家族
第3章 津波に流された人たち
第4章 高台に避難した人たち
第5章 屋上に逃げた人たち
第6章 車で避難した人たち
第7章 救助された障害者
第8章 避難を呼びかけた人たち
第9章 船で津波にあった人たち
第10章 鉄道に乗っていた人たち
第11章 津波に襲われた仕事場
第12章 福島原子力発電所の教訓
第13章 21世紀の災害論
おわりに
参考資料